11年福島原発事故で放出 セシウム短期間で日本近海へ 「20~30」覆し1年後に還流

2019年7月8日  毎日新聞 夕刊7面

 

廃炉作業が進められている福島第1原発の1号機(右)から4号機。奥は処理水貯蔵タンク=福島県大熊町で2019年2月14日、本社ヘリから手塚耕一郎撮影

廃炉作業が進められている福島第1原発の1号機(右)から4号機。奥は処理水貯蔵タンク=福島県大熊町で2019年2月14日、本社ヘリから手塚耕一郎撮影

 2011年の東京電力福島第1原発事故で太平洋上に放出された放射性セシウムは、これまでの想定よりも短いルートですでに日本近海に戻ってきていたことが筑波大と海洋研究開発機構、金沢大の研究で判明した。流れ出たセシウムは、時計回りの亜熱帯循環に乗って数十年かけて日本近海に戻ってくると考えられていたが、1年後には近海で検出された。検出されたセシウムの濃度は低く、海の生き物に影響を与えないレベルだという。

 これまで、原発事故で海中に流れたセシウムは、亜熱帯循環に乗って20~30年ほどで日本に戻ってくると予測されていた。しかし、この研究チームが海水を採取して放射性セシウムの濃度を測定したところ、日本近海の東シナ海では12年から濃度が上がり始め、14年には最大に達した。その1年後には日本海でもセシウムの濃度が高くなっていたという。現在は再び太平洋に流れているとみられる。

 セシウムは、冬に季節風によって冷やされて密度が上がった海水が沈み込み、海中を西向きに移動する新ルートを通っていたと考えられる。筑波大の青山道夫・客員教授は「これほど短期間で戻ってくるというのは意外な結果だった。これまで知られていない新たなルートを見つけた」と話す。海洋研究開発機構の熊本雄一郎・主任技術研究員は「海水の循環が可視化されたことで、将来的には気候変動の予測などに貢献できる」と話している。【信田真由美】