スウェーデンの放射能汚染地域でガンが増加

 チェルノブイリから 1800km離れたスウェーデン北西部は、事故2日後の 4 月 28 日から 29 日にかけて降った雨のよって、かなりの放射能で汚染された。被災3カ国の法令に従えば「汚染地域」と指定される、3.7万ベクレル/m2 以上のセシウム 137 汚染面積は 2 万 3000 平方 km に達した。リンコピング大学のトンデルらのグループは、チェルノブイリからの放射能によって、スウェーデンの汚染地域でガンが増加するかどうかを調べてみようという疫学研究を企画した。スウェーデンには、そのような疫学調査に取り組むための基本的な条件が整っていた。すなわち、詳細な汚染測定データ、正確な住民登録、それに確かなガン診断登録制度である。

 トンデルらはまず、スウェーデンの中北部で汚染を受けた7つの州を調査対象に選び、スウェーデン放射線防護局が作成したセシウム 137 汚染地図を用いて、行政の最小単位である「地区」を6つの汚染レベルに区分した(図 12)。次に、7州の住民登録を基に、1986 年に 60 歳以下であって、1985年 12 月 31 日と 1987 年 12 月 31 日に同一住所に登録されていた住民すべてを対象集団として選び出した。その結果、性別、年齢、先行する2年間の居住地に関する情報を備えた、114 万3182 人の調査対象集団が得られた。スウェーデン・ガン登録データを基に、1988 年から 1996 年の9年間に調査集団で発生したガンを調べると、全部で2万 2409 件のガン発生が見つかった。

 汚染レベルとガン発生率との関係をプロットしてみると、汚染レベルともに統計的に有意なガン増加が認められた(図 13)。ガン発生の過剰相対リスク(図の直線の傾きに対応)は、セシウム 137 汚染 10万ベクレル/m2 当り 0.11(95%信頼区間:0.03-0.20)であった。ガン増加の原因が放射能汚染であったとすると、観察されたガンのうち 849 件がチェルノブイリからの汚染によるものと見積もられている。

 トンデルらの論文では被曝量は評価していないが、今中の大ざっぱな見積もりでは、10万ベクレル/m2 のセシウム 137 汚染があったとして、はじめの2年間で受ける被曝量は 10~20ミリシーベルト 程度であろう。10万ベクレル/m2 当り 0.11という過剰相対リスクを シーベルト 当りに変換すると、1シーベルト 当り 5~10 の過剰相対リスクになる。広島・長崎被爆生存者の追跡調査データでは1シーベルト当り約 0.5 なので、トンデルらはその 10~20倍のリスクを観察したことになる。この違いについてトンデルは、10ミリシーベルト といった低レベル被曝では被曝量・効果関係が直線ではなく、極低レベルで効果が大きくなるモデルで説明しようとしている。

図表の単位は川根がkBq/m2をベクレル/m2に直しました。スウェーデンの地名も日本語表記にしました。あとは、今中哲二論文からの引用です。