[解説]

 九州電力、川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不当だとして、住民らが国を相手取って原子炉の設置許可取り消しを求めた行政訴訟で、福岡地裁(倉沢守春裁判長)は2019年6月17日、住民らの訴えを退ける判決を言い渡しました。

 倉田守春裁判長は、判決の中で「火山活動を評価する科学的知見が確立されていないため、火山ガイドには不合理な疑いが残る」としながら、「大規模噴火の発生はきわめて低い頻度であり、法律が想定する“自然災害”に含まれているとは言えない。従って原子力規制委員会の審査が不合理とは言えない」と原告の訴えを棄却するという、支離滅裂ぶりを発揮しました。

〈参考〉以下、鹿児島テレビ報道 2019年6月17日

しかし、以下の日本経済新聞の記事では、「火山活動を評価する科学的知見が確立されていないため、火山ガイドには不合理な疑いが残る」の部分の倉田守春裁判長の見解が削除され、あたかも原子力規制委員会の火山ガイドがさも正しいかのような記事になっています。これは判決文のつまみ食いによって、判決の支離滅裂さを隠蔽しようとするものだ、と考えます。

 この倉田守春裁判長の判決には、まだまだでたらめな内容があります。テレビ、新聞が一切報道しないこと、「100ミリシーベルトまではがんは増えない」「喫煙や大量飲酒などの生活習慣の方が発がんリスクを上昇される要因である」だから、原発の事故による被曝はたいしたことない、という判決文です。

 チェルノブイリ原発事故でも、韓国の古里原発周辺住民の裁判でも、100ミリシーベルトというしきい値など否定されています。原発事故でや通常運転の原発でも、数ミリシーベルトからでも様々ながんを発症することは明らかです。

 また、そもそも、子どもはタバコも吸わないし、大酒も飲みません。放射線被曝のリスクだけ受けるのではないですか?「放射線被曝によるがんリスクと生活習慣によりがんリスク」とを同列に並べて比較するのは、詐欺です。リスクという数値に一般市民が誤魔化されることを狙った、一見「科学的な説明」ですが、個人個人の放射線被曝と、その同じ個人の生活習慣について考えれば、このリスクという数字で比較するのが間違いであることが分かります。子どもだけでなく、大人で大酒飲みの人が100ミリシーベルト被曝した後に、生活習慣を変えて、大酒飲みをやめたら、発がんリスクは減るのでしょうか?いいえ、減りません。放射線被曝による、発がんリスクだけが残るのです。すなわち、放射線被曝したか、しなかったか、だけが、普通の生活習慣の大人にとっては問題なのです。放射線被曝の健康影響に、生活習慣を持ち込むのは、詐欺です。この川内原発設置許可取り消し判決は、詐欺理論にもとづく、不当判決です。

 

 

〈参考〉川内原子力発電所設置許可取り消し請求事件判決文全文 2019年6月17日 倉田守春裁判長 pp.94,95

〈参考〉「甲状腺がんは、原発のせいだ」韓国 イ・ジンソプ裁判釜山判決 2014年10月17日

川内原発の設置許可取り消し認めず 福岡地裁判決

2019年6月17日 日本経済新聞 

川内原発の設置許可取り消し訴訟で「不当判決」の垂れ幕を掲げる原告側(17日午前、福岡市中央区の福岡地裁前)

 九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不当だとして、住民らが国を相手取って原子炉の設置許可取り消しを求めた行政訴訟で、福岡地裁(倉沢守春裁判長)は17日、住民らの訴えを退ける判決を言い渡した。住民側は控訴する方針。

 2011年の東京電力福島第1原発事故以降、新規制基準に基づく原子炉の設置許可の是非を巡る集団訴訟での司法判断は初めて。

 原告は鹿児島や熊本、福岡など10都県の住民33人。原告側は訴訟で「世界で最も火山のリスクが高い原発」と主張。「火山の影響を審査する基準が不合理で、判断過程に多くのミスがある」などと訴えた。一方、国や訴訟参加した九電側は「専門的知見を踏まえており、十分な合理性がある」と反論していた。

 倉沢裁判長は判決理由で、火山の影響を審査する規制委の「火山ガイド」に関し「破局的噴火など極めて低頻度の自然災害が想定されていなくても不合理とはいえない」と指摘。川内原発から半径160キロ以内の5つのカルデラについて「火山ガイドに基づく審査が不合理、または違法とはいえない」とした。

 原子力規制庁は「国の主張が認められたと聞いている。引き続き新規制基準に基づき適正な規制をおこなっていきたい」とコメントした。原告側弁護団共同代表の河合弘之弁護士は「噴火の確率は極めて低く無視していいというのは福島原発事故と同じだ」と判決を批判した。

九州電力の川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)

  川内原発を巡っては、住民側が14年、地震対策や火山の影響評価などが不十分だとして運転差し止めの仮処分を申請したが、鹿児島地裁が15年に却下。福岡高裁宮崎支部も16年、即時抗告を退けていた。

 川内1号機は今回の裁判とは別に、設置が義務付けられているテロ対策施設「特定重大事故等対処施設」の完成が期限に間に合わず、2020年3月18日に運転停止となる見通しになっている。

 

川内原発の設置取り消し認めず 「規制委指針は不合理と言えない」福岡地裁

2019年6月17日(月)  鹿児島テレビ

 川内原子力発電所の再稼働の前提となった、原子力規制委員会の許可を取り消すよう鹿児島や福岡の住民が国に求めている裁判で、福岡地裁は17日、原告の訴えを棄却しました。原発の新しい規制基準の下で、原発の設置許可の適法性について司法が判断したのは全国で初めてです。

 訴えを起こしているのは、鹿児島や福岡などに住む住民33人です。

 国の原子力規制委員会は2014年、川内原発1、2号機について新しい規制基準に適合すると判断して九電に原発の設置変更許可を出し、その後、川内原発は再稼働しました。

 裁判で原告は、火山に対するリスクの検討が不十分だとしてこの設置変更許可の取り消しを求め、一方の国は、最新の知見に照らして審査したとして訴えを棄却するよう主張しています。

 裁判の主な争点は、原子力規制委員会が火山のリスクについて検討する際に用いた、いわゆる「火山ガイド」という指針の合理性でした。

 2019年6月17日の判決で福岡地裁の倉澤守春裁判長は「火山活動を評価する科学的知見が確立されていないため、火山ガイドには不合理な疑いが残る」としたものの「大規模噴火の発生はきわめて低い頻度であり、法律が想定する“自然災害”に含まれているとは言えない。従って原子力規制委員会の審査が不合理とは言えない」と原告の訴えを棄却しました。

 また、一部の原告については「原発からの距離が離れていて、原告適格がない」と訴えを却下しました。

 新しい規制基準の下で原発の設置許可の適法性について司法が判断したのは全国で初めてです。