放射線治療を受けた患者の遺体を火葬、職員や施設から放射線 米
医療施設にある放射能標識(2017年7月27日撮影、資料写真)。(c)ASHRAF SHAZLY / AFP
【3月12日 AFP】2017年末、放射性核種「ルテチウム177」による膵(すい)がん治療を受けたばかりの69歳の米国人男性が亡くなり、遺体は死後5日たって火葬された。
それから3週間後、アリゾナ州のメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)で放射線安全管理責任者を務めるケビン・ネルソン(Kevin Nelson)氏は、この男性が亡くなったのが別の病院だったため、それに気づくのが少し遅れてしまったことを不安に思い始めた。
ネルソン氏が以前勤務していたフロリダ州では、放射性物質が残留している遺体を火葬することは違法となっていた。だが、アリゾナ州ではどうなのだろうか。
調べた結果、アリゾナ州に関連法規は存在せず、違法ではないことが分かった。だが、州当局はネルソン氏の立ち会いの下、この火葬場の放射線量を測定することにした。
ガイガーカウンター(放射線測定器)を使って火葬炉、真空フィルター、遺骨の粉砕機を計測すると、ルテチウムが検出された。また、火葬場職員の尿検査を行ったところ、ルテチウムは検出されなかったが、別の放射性物質であるテクネチウム99がわずかながら検出された。テクネチウム99は、病院での診断検査に広く使われている。
別の患者を火葬した時に遺体に残留していたテクネチウムが高温で蒸発し、この職員はそれを吸引し、汚染されたと考えられた。
■ごくわずかなレベル
ネルソン氏と同僚のネーサン・ユー(Nathan Yu)氏は2月27日、結果を米国医薬会雑誌(JAMA)で発表した。アリゾナ州のメイヨー・クリニックの放射線腫瘍科研修医であるユー氏は「火葬施設の汚染が記録されたのは初めてのことだ」と、AFPの取材に述べた。
ネルソン氏によると、検出された放射線量は「ごくごくわずかだ」という。また、この火葬場職員が浴びた放射線量は、米原子力規制委員会(NRC)が定めた一般公衆の年間線量限度に全く及ばない程度だと「非常に自信を持って言える」と付け加えた。
■放射性医薬品での治療や検査は世界で4000万件
ペースメーカーや除細動器など、火葬中に爆発する可能性のある体内植え込み型の機器は、火葬前に火葬場で取り外される。だが、米国の多くの州では、遺体に残留している放射性物質という厄介な問題については対処してこなかったようにみえる。
AFPが取材したNRCの広報担当者によると、連邦レベルでは、放射線治療を受けた患者の遺体の処置について、火葬や解剖などを法律で定めているという。火葬業者については厳密に言えば規制していないが、規制に実効性を持たせるため、病院が火葬場に被ばくの危険性を報告することを義務付けている。
今回の場合、職員の被ばく線量は危険な水準ではなかった。だが、放射性医薬品には多くの種類があり、それらは異なる温度で揮発すると、ユー氏は警告する。
入手できる直近のデータとなる2006年の時点で、放射性医薬品を使用した治療や検査は全世界で4000万件に上っていたという。ネルソン氏らは、この危険性の評価方法を改善する必要があると訴える。
全米葬儀社協会(NFDA)はAFPの取材に対し、最近までアリゾナ州の件について知らなかったと述べた。だが、「この件についてのさらなる調査」を支援すると言明した。
また同協会は「火葬前に患者の遺体の放射線量を測定するなど」、火葬場の職員や一般市民を保護するための助言や勧告を歓迎すると述べた。(c)AFP/Ivan Couronne