衆院選2017
「アベノミクス加速」実態は?
毎日新聞 2017年10月19日 東京朝刊

就業者数185万人増→→→多くは非正規

GDPが過去最高→→→世界シェア低下

 「私たちは、正社員の有効求人倍率1倍を日本で初めて作り出した」。安倍晋三首相は18日、埼玉県熊谷市の街頭で胸を張った。アベノミクスの加速を訴え、経済規模を示す国内総生産(GDP)が過去最高を更新したと強調する。確かにこの5年で株価や雇用の指標は改善した。とはいえ裏付けのデータを調べると、主張とは異なる側面も浮かぶ。【和田浩幸】

 自民党公約に「就業者数185万人増加」「若者の就職内定率過去最高」など華々しいデータが並ぶ。2012年末の第2次内閣発足以降、正社員の有効求人倍率は右肩上がりで、今年6月に1・01倍と集計開始(04年11月)以来初めて1倍を超えた。リーマン・ショック(08年)後の09年下半期は0・25。回復ぶりは鮮明だ。

 でも、雇用の質はどうか。16年の労働力人口(15歳以上の就業者と失業者の合計数)はリーマン・ショックの08年とほぼ同じだが正規雇用は43万人減少した。役員を除く雇用者数は安倍政権下、16年までの4年で230万人増えたが、そのうち9割の207万人は非正規労働者だ。

 第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「製造業や建設業を中心に求人が増えた一方、雇用増で求職者は減ったこともその一因だ」と分析。「1倍を超えても年齢条件が合わなかったり、希望の求人がなかったりで、雇用環境は改善したが誰でも正社員になれるわけではない」と指摘する。

 実際、正社員の有効求人倍率(全国平均)が0・86倍だった16年を都道府県別に見ると、首位の東京1・23倍に対し最下位の沖縄は0・38倍で、半数超の27道県が平均を下回った。16年の職業別有効求人倍率(パートを除く常用)は平均1・11倍。人手不足の「建設・採掘」は3・38倍だが、肉体的負担の少ない「事務的職業」は0・34倍にとどまる。

     ◇

 自民党公約は、名目GDPが50兆円増え過去最高の543兆円になったと強調。首相も街頭で、アベノミクスの「三本の矢」で挑んだ結果だと訴える。しかし、同志社大の服部茂幸教授(経済政策)は「都合の悪い事実に触れていない」と語る。政府の誘導する物価上昇の影響を名目値から差し引いた実質GDPの増加率は、リーマン・ショック前の水準を下回っている。「円安でも輸出は伸びなかった。停滞に苦しんだ80年代の米国と似た構造だ」とみる。

 内閣府によると15年の名目GDPはドル換算で4・4兆ドルとなり、世界全体に占める割合は5・9%と12年比2・3ポイント下がった。金融緩和による円安が要因だがデフレ脱却の見通しは立たず、日本の存在感は低下している。

 京都女子大の橘木俊詔(たちばなきとしあき)客員教授(労働経済学)は「賃金が停滞し格差が解消されていない。有権者は政権が示すデータをしっかり確認し、判断することが重要だ」と指摘している。