日本放射線安全管理学会『放射性ヨウ素・セシウム安全対策に関する研究成果報告3 被災地域住民及び隣接地域住民の甲状腺モニタリングのあり方について』2011年7月20日付 より

(1) 上記報告書 pp.28には、「一般公衆の成人の甲状腺部位にヨウ素131が10万ベクレルあったときは、甲状腺等価線量は337ミリシーベルトになるヨウ素131の粒子口径を1.0マイクロメートルとしたとき)」とあります。(最後に全文を掲載してあります。)

 しかし、真実に近いのは、実測値です。推定では、さまざまな条件が原発村の都合のいいように加算(減算?)されていきます。2011年3月12日~15日や2011年3月21日~23日に甲状腺にシンチレーション・スペクトロメータを当てて、検査したデータが存在するのではないでしょうか?

(2)井戸川克隆 前双葉町町長は、2011年3月12日夜福島県立医大でホールボディーカウンターの検査を行い、体内にヨウ素131が31万ベクレル存在することを知らされました。これは、(1)のヨウ素131の粒子口径が1.0マイクロメートルであり、井戸川氏の甲状腺にすべてのヨウ素131が蓄積していたとすれば、337ミリシーベルトの約3倍、つまり、1000ミリシーベルト、すなわち1シーベルトの被ばくをしたことになります。

 福島県立医大は、真実を隠蔽せず、福島県民の本当の内部被ばくの実態を明らかにするべきではないでしょうか?

(3) 福島県では原発事故直後に甲状腺被ばくを測定するために、床次眞司教授(弘前大被ばく医療総合研究所)が2011年4月11~16日、同県浜通り地区から福島市に避難した48人と、原発から30キロ圏周辺の浪江町津島地区にとどまっていた17人を対象に、 シンチレーションスペクトロメータを使い、 甲状腺のヨウ素131被ばく検査を実施しています。(合計65名)

 この床次眞司氏の浪江町津島地区17名および福島市に避難した浜通りか福島市に避難した合計65名の甲状腺被ばく等価線量は、最高87ミリシーベルトと当初、報道れました。(2012年3月11日 日本経済新聞

 ところが、同年7月12日にScientific Reportsに掲載された、Thyroid doses for evacuees from the Fukushima nuclear accident“では、対象者は3名減って62名になり、甲状腺被ばく等価線量は、最高33ミリシーベルトとされました。(2012年7月12日 共同通信)

 さらに、2013年1月11日になると、やはり3名少ない62名の甲状腺被ばく等価線量を元に、浪江町民2393名の甲状腺被ばく等価線量を推定したところ、最大で4.6ミリシーベルトだったと発表しています。(2013年3月22日 日本原子力文化財団 専門家インタビュー 福島県浪江町民の甲状腺被ばくを追って 床次眞司氏)これはホールボディーカウンターで測定した体内のセシウム134から当時のヨウ素131の内部被ばくを推定し、そこから甲状腺被ばく等価線量を求めたものです。 

(4)専門家の言う事を信じるのは、大変危険であることが上記、床次眞司氏の研究からも言えます。当初の87ミリシーベルトの再検証も一切なく、次々と甲状腺被ばく等価線量の数値を87334.6ミリシーベルトと低くしてしまい、他の放射線の専門家がこの床次氏の研究に基づき、「これくらいの放射線被ばくならば、健康影響は考えられない」と言っています。

 東大医学部附属病院 放射線准教授 中川恵一氏は2014年8月17日の政府広報で「福島県の調査によると、原発事故から4か月間の外部被ばくは99.97%の方が10ミリシーベルト以下でした」「福島では被ばくによるがんは増えないと考えらます。」と述べています。中川恵一氏はさらに、新著『放射線医が語る福島で起こっている本当のこと』ベスト新書で、「手術を受けた高校生は過剰診断の被害者」 「甲状腺がんの検査は即刻やめるべき」と述べています。

 日本政府は、この「福島ではがんが増えない」「福島の甲状腺検査は過剰診療」という中川恵一氏を使ったキャンペーンに1億円も使っています。(2014年9月22日東京新聞)

政府広報 放射線についての正しい知識を 20140817

 内部被ばくを無視し、外部被ばくだけで福島県民の被ばく線量を推定し、発がんリスクを否定する、日本政府、福島県、福島県立医大のやり方を認めるわけにはいきません。

 原発事故直後の、スクリーニング検査やホールボディーカウンターの数値など、実測値だけが真実を明らかにすると考えます。良心的な医師、研究者の告発、研究を期待します。

 チェルノブイリ原発事故直後、ソ連政府も内部被ばくの実態を隠しました。しかし、ルパンディン報告という秘密報告が明らかになっています。今中哲二さん他の日本語訳を川根が現在のシーベルト、ベクレル、グレイの単位に翻訳したのが以下の資料です。

 福島は小さなチェルノブイリではないのか、と思います。

『チェルノブイリ原発周辺住民の急性放射線障害に関する記録 ウラジーミル・ルパンディン』

<資料>日本放射線安全管理学会『放射性ヨウ素・セシウム安全対策に関する研究成果報告3 被災地域住民及び隣接地域住民の甲状腺モニタリングのあり方について』2011年7月20日付 pp.28

5.4 甲状腺被曝線量計算

 今回の事故のように原子炉施設から、放射性ヨウ素が異常に放出されたとき、事故1日後に周辺住民の甲状腺サーベイを実施したところ、一般公衆の成人の甲状腺部位に131Iが1.0×105 Bq(編集者注:すなわち、10万ベクレル)検出されたとする。放射性ヨウ素の摂取経路は、吸入摂取である可能性が高いと考えられる。粒子径は不明であるが、一般公衆のデフォルト値である1.0 μm を選択すれば、表1 の実効線量係数および甲状腺残留率を用いることができる。したがって、このときの甲状腺等価線量Hは、

H=M/R× e(50)=1.0×105/0.086×2.9×10-4337 (mSv)

と計算される。

 甲状腺の放射能が2 日後に2,000 Bq 検出された場合の被ばく線量は、6.7 mSvとなる。

 これらの甲状腺の線量は摂取率が正常範囲であると仮定し、その値を20%として計算されている。しかしながら、多くの日本人においては、日常の食生活でヨウ素を摂取している状態ならば、摂取率が20% 以下になる可能性が高く、被ばく線量も計算値よりも低くなる可能性が高い。したがって、甲状腺モニタリングによって被曝線量が算定されたとしても、あくまで推定値である。

 通常、100~200 mSv より高い線量では内部被ばくでも外部被ばくでも被ばくの線量にしたがって甲状腺がんになるリスクは増加する。しかし、そのような放射線誘発甲状腺がんリスクの増加は主に小児に限られ、成人での被ばくによるリスク増加を示す明確な証拠はない(国連科学委員会2006 年報告書)。

<資料> 『チェルノブイリ原発周辺住民の急性放射線障害に関する記録 ウラジーミル・ルパンディン』

 チェルノブイリ原発事故直後に、旧ソ連は、急性放射線障害を疑われる、避難住民の甲状腺の空間線量率を測定しています。日本はこれすらもしなかったのでしょうか。放射性医学総合研究所の職員は何をやっていたのでしょうか。

 急性放射線症、白血球減少症、自立神経失調症になったチェルノブイリ住民の甲状腺からは以下のガンマ線が検出されています。

〔急性放射線症〕

1.クリチェンコ,ニコライ・アレクセイビッチ(仮名)20歳男性,ボルシチェフカ村 

   甲状腺からの放射線 13.5マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月1日

4.カルテ№2520/476.(氏名略)女性48歳.5月3日,モロチキ村から入院

   甲状腺からの放射線 26.1マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月7日

〔白血球減少症〕

9.カルテ7784.(氏名略)女性65歳,アメリコフシチナ村住民 

   甲状腺10.4マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月15日

10.カルテ8011/554.(氏名略)男性21歳,ホイニキ市住民 

   甲状腺の放射線量1.131マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月23日

11.カルテ№ 8318/604.(氏名略)男性41歳,運転手,ホイニキ市住民 

   甲状腺0.30マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月13日

12.カルテ №7641/318.(氏名略)女性33歳,ポゴンノエ村住民 

   甲状腺12.2マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月7日

〔自律神経失調症〕

13.カルテ№7868/533.(氏名略)男性64歳,ウラーシ村住民.コルホーズ「新生活」労働者

   甲状腺放射線量は26.1マイクロシーベルト/時以上 測定日:1986年5月20日

14.カルテ№7805/496/539.(氏名略)女性63歳,ノボセルキ村 

   甲状腺26.1マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月13日

15.カルテ№7795/491.(氏名略)女性59歳,ノボセルキ村住民 

   甲状腺17.4マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月13日

16.カルテ№7818/495.(氏名略)女性49歳,ノボセルキ村 

   甲状腺26.1マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月13日

17.カルテ№7818/502.(氏名略)女性57歳,ノボセルキ村 

   甲状腺22.6マイクロシーベルト/時 測定日:1986年5月13日