東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(平成24 年法律第48 号。以下「法」という。)第5条第1項に規定する「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」(以下「基本方針」という。)について、別添のとおり案を作成したので公表するとともに、下記のとおり意見を募集する、偉そうに復興庁がパブコメを求めています。ろくに新聞、テレビでも広報活動もしないで、8月30日(金)に基本方針を発表して、締め切りが9月13日だそうです。
と復興庁のでたらめぶりを書いていたら、パブコメ締め切りが9月23日まで延期されたことを今知りました。
私たちは、本当の意味で東日本全体の被災地の復興と、私たちの子どもたち、私たち自身の被ばくによる健康問題、そして、今まだ産まれていない未来の世代の健康問題を考える、現実的な法案を作るべきです。
そもそも「原発災害 子ども被災者支援法」(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)の第2条 基本理念、第3条 国の責務 には以下のように書かれています。
(基本理念)
第二条 被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故による災害の状況、当該災害からの復興等に関する正確な情報の提供が図られつつ、行われなければならない。
2 被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。
3 被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故に係る放射線による外部被ばく及び内部被ばくに伴う被災者の健康上の不安が早期に解消されるよう、最大限の努力がなされるものでなければならない。
4 被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。
5 被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、子ども(胎児を含む。)が放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、その健康被害を未然に防止する観点から放射線量の低減及び健康管理に万全を期することを含め、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。
6 被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故に係る放射線による影響が長期間にわたるおそれがあることに鑑み、被災者の支援の必要性が継続する間確実に実施されなければならない。
(国の責務)
第三条 国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任並びにこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
つまり、被災地に留まるか、他地域に移住するかは被災者自らの意志によって選択できるようにすること。そのための支援を国の責任で行うことをうたった法律です。
「被災者生活支援等施策の推進に関する基本方針」へのパブコメへの意見
2013年9月11日 川根眞也
2013年9月15日改訂
(1)原発災害の一番の被害者は原発労働者です。ウクライナ法でも一番最初に取り扱われているのは、リクビダートル(除染作業員)です。原発労働者の健康被害に対する手当、対策なき、被災者生活支援施策はありえません。原発労働者の作業中の被ばく+生活圏での被ばくを含めた線量管理と健康被害への万全な補償が必要です。そして、原発労働者のみならず、原発震災地で活動した、消防士や警察官、自衛官、行政職員、ボランティアなどの方々に対する健康被害への万全な補償も必要です
※ 現状では、原発労働者は5年間で積算線量100ミリシーベルトの被ばく管理下にあります。100ミリシーベルトを超えたら、職を失うということです。命を賭して、事故作業にあたっているのに、なんという仕打ちでしょうか?100ミリシーベルトも超えてしまった原発労働者の一生の健康管理にかかる費用を無償にすること。その後のあらゆる身体的、精神的障害について国家が責任を持って補償すること。その家族も含め、一生の生涯賃金を保障することは当たり前のことだと思います。
(2)線量規定なき、原発震災 子ども被災者支援法は意味がありません。どんなに立派な美辞麗句があろうとも、100年経っても、何も施行されないでしょう。「福島33市町村に限定」。放射能汚染地帯を福島中通り、浜通りに限定にする方針案はナンセンスの極みです。率直に言って、民主党だけでなく自民党にこの法律の基本方針を策定する能力も意思もない、と思います。現政権のままでは原発災害の被災地の復興は期待できないし、原発震災 子ども被災者支援法は何の効力も持ち得ないだろう、というのが正直な感想です。
線量基準さえ議論できない、20ミリシーベルトを子どもにさえ押しつける、政党に、人間の放射線防護の基準作りができないのではないか、と思います。
(3)自然放射能 カリウム40と人工放射能 セシウム134、137とを同列に扱う議論(内部被ばくの実効線量計算 ベクレルからミリシーベルトへの換算)、外部被ばく線量をセシウム134、137によるガンマ線を測ったのみ空間線量率だけで計算する誤り。他の核種(ストロンチウム90、プルトニウム、アメリシウム)が土壌や水に含まれているか、調べて公表することもできていない。
(4)今後起きる健康被害については、まず初期被ばくが決定的なのではないでしょうか。特に2号機が爆発したとされる、2011年3月15日の空気を屋外で吸ったのか、吸わなかったのかが重要な影響を与えるのではないか、と考えています。これが原発から80kmを離れた福島市や郡山市でも小児甲状腺がんおよび疑いの患者が多数出ている原因なのではないでしょうか。原発災害 子ども被災者支援法では、この初期被ばくという概念そのものがありません。
『内部被曝のメカニズム 放射性物質はどこから体内に入るのか?』
チェルノブイリの事故について、放出された放射性核種は以下の通りです。【単位】はPBq(ペタベクレル)です。注目すべきなのはヨウ素131だけでなく、半減期が最も短い6.6時間のヨウ素135、半減期が2番目に短い20.8時間のヨウ素133が放出されていることです。これらはヨウ素131と同様に瞬く間に甲状腺に蓄積していきます。まず、呼吸器による取り込み、そして、皮膚からの取り込みによってです。
そして、群馬県高崎市にある大気圏内核実験のモニタリング所、高崎CTBTが観測した粒子状放射性核種の放射能濃度データでは、やはり空気1m3から大量のヨウ素135、ヨウ素133、テルル129m、テルル132が大量に計測されています。特に2011年3月15日15:55から3月16日15:55をご覧下さい。また、3月20日15:55から3月22日15:55までも非常に多くのヨウ素135、ヨウ素133、テルル129m、テルル132が検出されています。
下記のグラフでも3月15日に1番多かったのはテルル132であり、2番目がテルル129m、3番目がヨウ素131、4番目に多いのはヨウ素132です。このグラフでは残念ながらヨウ素135が省略されています。
日本政府や東電は、ヨウ素131やセシウム134、137だけしか問題にしていません。しかし、原発事故当初はこうした短寿命核種が放出された放射性物質のほとんどをしめていたのであり、これを吸いこみまたは皮膚から摂取したことによる、内部被ばくの影響が無視されています。すべてが現在の空間線量(事故から2年半も経っている現時点での)とそこから計算されるミリシーベルトに換算されて、健康影響を考えるという空理空論が被ばくした住民に押し付けられています。
初期被ばくを評価した被ばくについての議論を組み立てるべきです。
(5)基本方針でうたわれている健康診断は甲状腺検査と個人線量計による外部被ばくの測定、ホールボディーカウンターによる内部被ばくの測定だけです。お話しになりません。チェルノブイリで被災したウクライナ、ベラルーシ、ロシアに何も学んでいないと言わざるを得ません。
ベラルーシでは、原発事故によるリスクが高いグループを6つに分けて調査・統計を取り続けています。
① リクビダートル(除染作業員)
―1986年1987年に作業に従事した者
―1988年1989年に作業に従事した者
② 高放射能汚染地帯(セシウム137 40キュリー/km2以上=148万ベクレル/m2以上)から強制または自主的に移住したもの
③ 移住対象地域(セシウム137 15キュリー/km2以上=55.5万ベクレル/m2以上)に住んでいる住民※
④ ①、②、③の子どもたち
⑤ 移住する権利のある地域(セシウム137 5キュリー/km2以上=18.5万ベクレル/m2以上)に住む住民
⑥ 原発のみならず化学工場事故の被害を受けた住民
上記①~⑥以外に汚染リスクグループによる住民の健康管理を行っています。
A ①リクビダートル、②高放射能汚染地帯から避難した住民
B ③移住対象地域に住む住民、①、②、③の子どもたち、⑤移住権利地域に住む住民、⑥ 原発のみならず化学工場事故の被害を受けた住民
C 年間1ミリシーベルトを超える恐れのある住民
それぞれ6つのリスクグループごとに診断内容が決まっています。
① リクビダートル…内分泌の専門家による診断(血液一般検査・心電図・甲状腺超音波)
② 高放射能汚染地帯から避難した住民…内分泌の専門家による診断(血液一般検査・甲状腺超音波)
③ 子ども…小児科および内分泌の専門家による診断(血液一般検査・甲状腺超音波・ホール・ボディー・カウンター検査)
大人…内分泌の専門家による診断(血液一般検査・甲状腺超音波・ホール・ボディー・カウンター検査)
④ 子ども…小児科および内分泌の専門家による診断(血液一般検査・甲状腺超音波・ホール・ボディー・カウンター検査)
⑤ 子ども…小児科および内分泌の専門家による診断(血液一般検査・甲状腺超音波・ホール・ボディー・カウンター検査)
大人…内分泌の専門家による診断(一般血液検査・甲状腺超音波・ホール・ボディー・カウンター検査)
⑥ この地域にはいない
放射線被ばくについては、正常値は0ミリシーベルト。ベラルーシでは許容値として1ミリシーベルトが定められています。これは内部被ばく換算で計算されています。年間等価線量(内部被ばく)。2004年測定結果ではセシウム137 1~5キュリー/km2(同3.7万~18.5万ベクレル/m2)の地域住民の外部被ばくと内部被ばくは以下のようになりました。
外部被ばく 0.62ミリシーベルト
内部被ばく 0.40ミリシーベルト
合計 1.02ミリシーベルト
しかし、これはあくまでも平均化されたもので、人それぞれに被ばく線量は変わってきます。セシウム137 1~5キュリー/km2(同3.7万~18.5万ベクレル/m2)の地域と言っても、森や川にはたくさん放射性物質があります。日本でも山を歩いたり、森や川の物を取ったりして食べる人は高い外部被ばく、内部被ばくをすることになります。
この外部被ばく、内部被ばくについて、以下の3つを計算してこの地区の住民の被ばく線量を出しています。
① 住民のホール・ボディー・カウンター(WBC)の測定値
② 土壌の放射性物質濃度
③ 国が決めた許容線量範囲内での食品の汚染度の値
『ベラルーシ・プロジェクト報告』p.5~6 より。
日本でも原発労働者や高放射能汚染地帯から強制または自主的に移住した人びとに対する血液一般検査、心電図、甲状腺超音波を行うべきです。同様に、緊急時避難準備区域等で業務にあたった消防士や警察官、自衛官、行政職員、ボランティアなどの方々に対しても行うべきです。
また、ベラルーシに習い、土壌がセシウム137で1キュリー/km2(3.7万ベクレル/m2)以上、汚染されている地域(※注)に居住している子どもや大人に対して、血液一般検査・甲状腺超音波・ホール・ボディー・カウンター検査を定期的に実施すべきです。これに加えて、心電図検査も実施すべきだと思います。
※注 ベラルーシ、ウクライナ、ロシアではセシウム137による土地汚染だけで住民の放射線防護を行っているのではありません。①外部被ばく+内部被ばくで1~5ミリシーベルト以上 ②セシウム137による土地汚染 ③ストロンチウム90による土地汚染 ④プルトニウム238、239、240による土地汚染 の4つによって住民の放射線防護を考えています。
『チェルノブイリ原発事故に伴う放射性物質汚染区域の地域区分 ベラルーシおよびロシア』