2013年8月20日第12回福島県県民健康管理調査検討委員会は、福島県の小児甲状腺がんの患者が6人増え、18名になり、25人が疑いがある、と発表しました。
県民健康管理調査検討委員会は「いずれも生存率の高い甲状腺乳頭がんである」と発表、と報道しています。しかし、ベラルーシの例では子どもの甲状腺がんは非常に転移が早い場合があり、1991年頃に15名の子どもが命を失っています。
川根が書いた『ベラルーシ・プロジェクト報告』でも紹介したように、ベラルーシでチェルノブイリ事故以前に見られた小児甲状腺がんはすべて髄様がん(ずいよう)であり、チェルノブイリ事故以降、ベラルーシで爆発的に増えたのが甲状腺乳頭がんです。ベラルーシの医師は甲状腺乳頭がんは「放射性物質誘導がん」である、と説明してくれました。
福島の子どもたちの小児甲状腺がんがすべて甲状腺乳頭がんであるならば、原発事故による放射性物質を体内に摂取したことによって引き起こされたと考えなくてはいけません。
そして、甲状腺エコー検査で結節やのう胞が見つかった場合、悪性かどうかの判断は穿刺細胞診(せんしさいぼうしん)という、甲状腺にできた結節やのう胞に直接、注射針を差し込み、患部の細胞を採って顕微鏡で見て診断を確定します。
ある意味、穿刺細胞診(せんしさいぼうしん)をするということは甲状腺がんである可能性がかなり高いということです。
福島県はB判定やC判定の市町村別の人数を発表しています。これを見ると、リスクの高いB判定やC判定の子どもたちや、甲状腺がんおよび疑いと診断された子どもたちは原発に近い20km圏内および計画的避難準備区域だけではなく、原発から60kmも離れた福島市や郡山市の子どもたちも多いのです。原発からの距離ではなく、2011年3月、4月、5月などにヨウ素131などの放射能プルームを呼吸で吸ったことによる初期被ばくが決定的であったと思います。
7月31日段階でのB判定、C判定の人数はすでに1280名にも上り、二次検査後、穿刺細胞診(せんしさいぼうしん)を受けたのは203名にものぼりました。年内に50名を超える小児甲状腺がんの子どもたちが出る危険性も否定できません。
2013年6月5日に発表された第11回福島県県民健康管理調査検討委員会の発表も掲載します。
2013年11月8日、福島県および福島県立医科大学は、小児甲状腺超音波検査の二次結果集計に誤りがあったことを認め、訂正を出しました。第12回の県民健康管理調査検討委員会(2013年8月20日公表)に至っては、なんと71ヶ所に及ぶ訂正があります。
福島県および福島県立医科大学は、これは資料作成時の「数値の誤集計(計上漏れや誤計上)」、「データを分類する際の担当者の誤解等による誤り」が原因であるといいます。
特に大きな訂正は福島市の穿刺細胞診をした子どもの人数が2013年8月20日発表では67人だったのが、2013年11月8日では77人と10人も増えています。同様に西郷村の穿刺細胞診を受けた人数が1人から0人になっています。2013年8月20日発表の段階で、西郷村ではこの小児甲状腺がんおよび疑いが1人発見されています。この子どもの穿刺細胞診を行なわずに小児甲状腺がん疑いの判断をするいうことはありうるのでしょうか?
県民健康管理調査検討委員会の統計自身の信頼性に疑問が残ります。
そして、福島県原子力災害現地対策本部が発表した、2011年4月5日および6日時点での福島県小学校等の校庭に沈着したヨウ素131(ベクレル/m2)と空気1m3中のヨウ素131の量(ベクレル/m3)です。このような場所に、福島県の子どもたちや住民を住まわせていた、日本政府と福島県の責任は重大だと考えます。
福島県、宮城県、茨城県を始め、高い放射能プルームが襲った地域で、子どもも大人も甲状腺がんを発症する危険性があります。そのリスクを少しでも避けるために、子ども、妊婦、乳幼児を持つ親を始め、高放射能汚染地帯から、一刻も早く住民を避難させることを訴えます。
この赤や黄色で色塗られた、大地がヨウ素131で37万ベクレル/m2以上汚染された地域は、以下のベラルーシの黄色の地域に相当します。そこでの1990-2000年までベラルーシ全土で956名の小児甲状腺がんの患者が発症していますが、その行政区ごとの発症人数がその下の図です。明らかにヨウ素131の土壌沈着量が多かったところでの発症数が多いです。ゴメリの1つの地区では実に152名の小児甲状腺がんの子どもが出ています。
そして、全国で子どもを始め、大人も甲状腺エコー検査、心電図検査、血液検査を無償で実施すべきです。甲状腺エコー検査についてはベラルーシの例に学び、移動式超音波検診車を早急に準備し、稼働させるべきです。
以下は原発事故当時2011年4月5日や4月6日に福島県の小学校の校庭にどれくらいのヨウ素131があり、また、校庭の空気の中のちりにどれくらいのヨウ素131があったかを示す資料です。このような場所はただちに学校閉鎖し、子どもたちを安全な場所に避難させるべきでした。それを文科省は科学的な根拠もなく、国際放射線防護委員会(ICRP)が言っているからと20ミリシーベルトまでは安全と、空間線量だけで判断し、3.8マイクロシーベルト/時でも8時間を超えなければ安全と屋外活動をさせたのでした。
政府も福島県も各自治体も子どもたちの今後一生に渡る健康被害の責任を負う必要があります。
<福島県の小学校校庭のヨウ素131 土壌ベクレル/kgと土地ベクレル/m2>
川俣町立山木屋小学校 校庭 ヨウ素131 299,444ベクレル/kg→195万ベクレル/m2
南相馬市立原町第一小学校 校庭 ヨウ素131 20400ベクレル/kg※→133万ベクレル/m2
福島市立第一小学校 校庭 ヨウ素131 8193ベクレル/kg→53.3万ベクレル/m2
二本松市立岳下小学校 校庭 ヨウ素131 6126ベクレル/kg→40.4万ベクレル/m2
伊達市立保原小学校 校庭 ヨウ素131 5653ベクレル/kg→36.7万ベクレル/m2
ここまでは先のベラルーシのヨウ素131の汚染マップで黄色のレベルに相当します。
郡山市立金透小学校 校庭 ヨウ素131 3096ベクレル/kg→20.1万ベクレル/m2
<空気1m3中のダスト(ちり)中のヨウ素131>
小数点と欧米の記数法の三桁ごとのカンマとを見間違えていました。お詫びして訂正します。ただし、2011年4月5日や4月6日の時点で、空気中にヨウ素131が4ベクレル/m3や8ベクレル/m3あったということは異常な数値であることにはかわりはありません。2011年3月12日~3月15日、16日、3月20日前後の時点で、数千ベクレル/m3のプルームに襲われた地点あるが予想されます。初期被ばくをした子どもたちを直ちに汚染地帯から避難させるべきであると考えます。
2016年2月5日訂正 川根 眞也
川俣町立山木屋小学校 校庭 ヨウ素131 空気 ND ベクレル/m3 地表面湿潤
南相馬市立原町第一小学校 校庭 ヨウ素131 空気 8.796ベクレル/m3
福島市立第一小学校 校庭 ヨウ素131 空気 1.044ベクレル/m3
二本松市立岳下小学校 校庭 ヨウ素131 空気 2.941ベクレル/m3
伊達市立保原小学校 校庭 ヨウ素131 空気 ND ベクレル/m3 理由不明
郡山市立金透小学校 校庭 ヨウ素131 空気 1.977ベクレル/m3
田村市立船引小学校 校庭 ヨウ素131 空気 1.394ベクレル/m3
南相馬市立原町第一小学校 校庭 ヨウ素131 空気 8.796ベクレル/m3
浪江町立津島小学校 校庭 ヨウ素131 空気 2.610ベクレル/m3
いわき市立平第一小学校 校庭 ヨウ素131 空気 4.041ベクレル/m3
いわき市立勿来第一小学校 校庭 ヨウ素131 空気 4.713ベクレル/m3
いわき市立四倉小学校 校庭 ヨウ素131 空気 4.664ベクレル/m3
<以下、赤字を削除します。2016年2月5日削除>
1m3中の空気に1000ベクレルを超えるヨウ素131がありました。これを吸って、甲状腺に放射性ヨウ素131がたまらないはずはないです。(削除)小児甲状腺がんのリスクが高まったのは2011年3月15日以降6月上旬まで原発からさかんにヨウ素131が出ていた時期に学校を行っていたことがもっとも問題です。
政府と文部科学省の責任は非常に重いです。
以下、「福島県内の学校等の校舎、校庭等の利用判断における暫定的考え方 に対する技術的助言を検討する際の打ち合わせに用いた資料について」(原子力安全委員会事務局 2011年4月18日p.22 および p.23)より。
上:福島県小学校等環境放射線土壌・ダストモニタリング時実施結果(土壌)
下:福島県小学校等環境放射線土壌・ダストモニタリング時実施結果(大気浮遊塵)
文部科学省は2011年9月12日公表した、「文部科学省によるダストサンプリングの測定結果[Readings of dust sampling by MEXT]」の中で、2011年3月18日~4月26日の福島県各地の空気中のヨウ素131、セシウム134、セシウム137の濃度(ベクレル/m3)を発表しています。問題なのは、原発が爆発した2011年3月12日、14日、15日のデータが公表されていないことです。また、爆発直前にベントを行っていたり、格納容器や圧力抑制室が破損して放射性物質が放出されたりした時期のデータが公表されていません。文科省は2011年3月11日から17日までのデータを公表すべきです。
2011年3月20日以降のデータです。東京電力の社内基準によれば、200ベクレル/m3の放射性物質がある場合、全面マスクを着用することになっています。赤字が200ベクレル/m3を超える放射性物質があった地区です。ここでは、事故当時、全面マスクを着用する必要がありました。国と東京電力の責任は重大です。
<参考>東電の全面マスク着用の社内基準 pp.3
全面マスク着用基準(粒子状) 2E-4Bq/cm3 …200Bq/m3ということ(編集者:注)
法令に定める放射線業務従事者の呼吸するダスト濃度限度(Cs-134)の1/10で設定)
出典:全面マスク着用を不要とするエリアの拡大に関する検討状況について 東京電力 20150207
文部科学省によるダストサンプリングの測定結果 2012年9月12日公表
【出典】文部科学省によるダストサンプリングの測定結果 2011年3月20日~5月31日 20120912
2011年3月20日の大気
福島県葛尾村上野川 ヨウ素131 4800ベクレル/m3(14:13~14:33)
福島県浪江町津島 ヨウ素131 1000ベクレル/m3(14:15~14:35)
福島県福島市方木田 ヨウ素131 203ベクレル/m3(18:30~18:50)
福島県飯舘村伊伊丹沢 ヨウ素131 270ベクレル/m3(13:20~13:40)
福島県田村市常葉町山根 ヨウ素131 900ベクレル/m3(14:13~14:30)
福島県田村市船引町船引 ヨウ素131 33.7ベクレル/m3(12:40~13:00)
福島県田村市小野町小野新町 ヨウ素131 24.0ベクレル/m3(13:57~14:17)
2011年3月21日の大気
福島県広野町下北迫 ヨウ素131 5800ベクレル/m3(13:00~13:40)
3700ベクレル/m3(13:50~14:32)
福島県いわき市平 ヨウ素131 28.9ベクレル/m3(15:00~15:20)
2011年3月22日
福島県広野町下北迫 ヨウ素131 1100ベクレル/m3(14:55~15:34)
570ベクレル/m3(15:50~16:30)
福島県いわき市平 ヨウ素131 17.0ベクレル/m3(14:00~14:20)
2011年3月23日
福島県広野町下北迫 ヨウ素131 530ベクレル/m3(13:15~13:58)
180ベクレル/m3(14:30~15:10)
110ベクレル/m3(15:20~15:59)
2011年3月24日
福島県南相馬市原町区高見町 ヨウ素131 193ベクレル/m3(14:55~15:15)
2011年3月25日
福島県川俣町山木屋 ヨウ素131 555ベクレル/m3(15:02~15:22)
福島県飯舘村長泥 ヨウ素131 440ベクレル/m3(13:28~13:50)
330ベクレル/m3(14:28~14:50)
福島県田村市船引町船引 ヨウ素131 37.0ベクレル/m3(13:33~13:53)
290ベクレル/m3(15:28~15:49)
福島県いわき市平 ヨウ素131 40.6ベクレル/m3(14:00~14:20)
福島県伊達市月舘町 ヨウ素131 34.0ベクレル/m3(16:13~16:33)
福島県新地町 ヨウ素131 33.6ベクレル/m3(16:25~16:45)
2011年3月29日
福島県南相馬市原町区高見町 ヨウ素131 63.4ベクレル/m3(13:30~13:50)
2011年3月30日
福島県川俣町山木屋 ヨウ素131 180ベクレル/m3(15:11~15:32)
2011年4月2日
福島県いわき市平 ヨウ素131 47.3ベクレル/m3(12:02~12:22)
2011年4月7日
福島県南相馬市原町区高見町 ヨウ素131 35.9ベクレル/m3(12:46~13:06)
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