【細川さんから皆さんへのお願い】

 細川さんは、これまで人に迷惑がかかるからと馬の異常をほとんど他言してきませんでした。ですが、異常がエスカレートしていくなか、お彼岸が過ぎたことを機会に公表することにしたそうです。

 ご本人の希望により、細川さんの置かれている状況、名前、住所、電話番号を公表いたします。関心のある方は連絡下さい、とのことです。

 特に獣医畜産の関係者や放射能関係の専門家はぜひ細川牧場を訪れて、本格的な調査を検討していただけませんか。細川さんからのお願いです。

細川牧場 細川徳栄さん

福島県相馬群飯舘村臼石字町123-1

090-9742-3141

FB「震災のあと」さん 2013.3.20 福島県飯舘村 「大変なことが起こっているよ」

 

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震災のあとAFTER 3.11

 

 山津見神社の鳥居から険しい参道を750mほど登ると本殿があり、豊かな自然に恵まれた美しい飯舘村が一望できました。とあるTV番組が発端で山津見神社が放射線を食い止めたという噂がたったのですが、神社の方にうかがうとまったくのガセネタ。「あー、それですか」と一笑に付されてしまいました。村を神社が守ってくれたなどという美談にでもしたかったのかもしれません。
 あいにくの曇り空でしたが、映画にでも出てきそうな美しい村に震災以前は6000人の人が暮らしていたそうです。しかし、今は数えるほど。放射能の影響で全村避難を強いられていますが、この村にたった1人牧場に残り馬の世話を続けている人がいました。細川徳栄さん、飯舘村で3代続く家畜商の方です。

 細川さんは会うなり「この国は狂ってる。大変なことが起こってるよ」と切り出すと、挨拶も早々に牧場へと案内してくれました。この数週間で馬がバタバタと倒れはじめたんだそうです。牧場には32頭の馬がいましたが、そのうちの4頭はヨロヨロと腰が立たない状態で、一番症状がヒドい白いミニチュアホースは毛並みもボロボロ。同行した獣医さんの診察では目に黄疸症状が出ていて、原因は不明ですが肝臓をやられているようでした。何より膝がガクガクと崩れることを不思議がっていました。細川さんは「こいつはもう今月もたないと思うんだ。かわいそうに」と言いながら横たわる馬を撫でていました。牧場の脇を野生の猪が突っ切っていきました。
 今年に入って15頭の馬が生まれたものの、14頭は1週間から1ヶ月足らずで亡くなったそうです。
「小さい頃から馬と暮らしてきたけれど、こんなことは初めてだ。異常だよ。それもこれも放射能だと思うんだ」と細川さんは放射能の影響を強調していました。もちろん科学的な根拠はありません。長年、馬と触れ合ってきた感覚なんだと思います。
 これまで避難区域で亡くなっていった牛たちのことは報道でも伝えられていましたが、その多くは餌を与える人がいなくなったことでの栄養失調が原因でした。この牧場の馬たちは十分ではないでしょうが餌は与えられています。症状が出ていない馬たちは決してやせ細ってもなく、食欲もあるように見えました。後日、保健所にお願いし血液検査を行ったところ、結果は伝染病でも栄養失調でもないことは断定されました。ですが、放射能の影響が懸念される白血病という判断もでませんでした。もっと詳しい検査をしないと衰弱の原因はわからないそうです。
 先日、飯舘村を含めた福島原発周辺で動植物の異常が相次いでいるという4人の研修者の調査結果が東京大学で報告されました。ですが、子どもが甲状腺癌になっても放射能の影響はないとする現在の基準では、馬の異変を放射能の影響と断定するのは難しいでしょう。仮にそうでも影響があるから避難地域なのだと言ってしまえばそれまでです。でも、生き物が異常な状態で亡くなれば話の次元は変わると思います。この馬たちにいったい何が起こっているのか。
 
 細川さんは牧場を経営しながら、「花塚ボランテイア活動」の会長を務め、これまでさまざまな機会に馬を提供してきました。東京の神田明神、相馬野馬追など数多くの有名な神事イベントや、水戸黄門、暴れん坊将軍、大河ドラマなどにも主人公を乗せた細川さんの馬が登場しています。各地の小学校や盲人施設でのホースセラピーにも積極的に貢献してきました。
 震災後、一度は避難したものの家族同然の馬や牛たちを見捨てられず、奥さんと娘さんを残してすぐに村に戻ったそうです。家畜商の仲間たちに頼まれて、自分の牧場以外の牛や馬までトラックで助けにいき、以来、まさにたった1人で戦い続けています。馬たちを他の地域に避難させたいと村や東電に訴えて来ましたが、受け入れ先がないと断られ仕方なく村に1人残り世話を続け、それどころかこれまで自ら全国の伝手をたどって、なんとか引き取ってもらった87頭の補償に対する賠償請求も「飼育していた証拠がない」と東電から突っぱねられている。
 「本当はもう限界だよ。だけど、今まで先祖代々自分たちを助けてくれた馬たちを置いていけない。処分なんてできるわけもない。俺は馬と一緒にここで死んだっていいんだ」
細川さんは、周りの説得も無視して健康診断もホールボディカウンターの検査も拒否しています。細川さんにとって、その結果がどうあれ、今やるべきことは馬への恩返ししかないのだと思います。

 牧場には1ヶ月ほど前に亡くなった馬の亡骸が、鳥や狐などに食べられ骨と皮だけになったまま放置されていました。
「違法なんだけど馬が死んでいった証拠を東電に見てもらうために残しているんだ。本当は埋葬したいんだけどね」
 特に症状の重かった白いミニチュアホースは細川さんが言っていた通り、一週間後の3月末に亡くなりました。亡くなるとすぐにカラスが目玉をくり抜いていったそうです。
僕らは鬼気迫る細川さんにただただ圧倒され、想像以上にシリアスな状況を前に呆然としてしまいました。けれど何かが押し迫っていることは確かだとは思いました。

「この国は狂ってる。この先も大変なことが起こるよ」
細川さんは、誰に言うともなく、そう何度も何度もつぶやいていました。

4月1日。山津見神社が全焼しました。住宅部分から女性の遺体が見つかったそうです。

文:小林通孝/写真:中村治

【細川さんから皆さんへのお願い】
細川さんは、これまで人に迷惑がかかるからと馬の異常をほとんど他言してきませんでした。ですが、異常がエスカレートしていくなか、お彼岸が過ぎたことを機会に公表することにしたそうです。
ご本人の希望により、細川さんの置かれている状況、名前、住所、電話番号を公表いたします。関心のある方は連絡下さい、とのことです。
特に獣医畜産の関係者や放射能関係の専門家はぜひ細川牧場を訪れて、本格的な調査を検討していただけませんか。細川さんからのお願いです。

細川牧場 細川徳栄さん
福島県相馬群飯舘村臼石字町123-1
090-9742-3141

英語版はこちらをご覧ください(World Newtwork For Saving Children From Radiation)
http://www.save-children-from-radiation.org/2013/05/05/something-serious-is-going-on-horse-ranch-owner-worries-alarming-conditions-of-horses-in-iitate-fukushima/

細川徳栄(家畜商・60歳)

1ヶ月ほど前に亡くなった馬の亡骸。鳥や狐、野犬に食べられ骨と皮だけになっていた。

ほとんど歩くこともできなくなっていた白いミニチュアホース。

横たわる馬に寄り添う細川さん。この馬は1週間後に亡くなった。

山津見神社本殿からは美しい飯舘村が一望できる。