初稿 2016年3月14日記 川根 眞也

                                 加筆・修正 2016年8月18日記 川根 眞也

 朝日新聞は、2016年3月9日18面に「放射線の影響 見極める」の特集を組みました。そこで、福島の小児甲状腺がん「地域差見られず」と書きました。そして、10万人あたり30人を超える小児甲状腺がんの発症率を、「チェルノブイリでは、本来、甲状腺がんがほとんでできないはずの5歳以下の乳幼児に多発した。」「一方、福島県でこれまでにがんと診断された計116人に事故当時5歳以下の乳幼児はいない。」と、原発事故の影響ではない、という福島県 県民健康調査検討委員会の見解を垂れ流ししています。

 果たしてそうでしょうか。山下俊一氏が、2000年に「チェルノブイリ原発事故後の健康問題 被ばく体験を踏まえたわが国の役割 唯一の原子爆弾被災以下大学からの国際被ばく者医療協力 山下俊一 2000年2月29日」の論文の中で、ベラルーシ共和国ゴメリ州の小児甲状腺がんの原発事故当時の年齢別診断数を公表しています。

 この表の縦軸は小児甲状腺がんと診断された年を表しています。横軸は、それぞれの子どもたちが原発事故当時、何歳であったかを示しています。たとえば、

1985年 1人(チェルノブイリ原発事故のあった1986年4月26日時点で16歳)

1986年 1人(チェルノブイリ原発事故のあった1986年4月26日時点で13歳)

1987年 4人(チェルノブイリ原発事故のあった1986年4月26日時点で11歳、12歳、14歳、16歳それぞれ1人)

※ 原発事故2年目の1987年の時点で、ベラルーシ共和国ゴメリ州での小児甲状腺がんの患者は急増しています。この時点で、山下俊一氏はゴメリ州に入っていません。甲状腺の結節を見つける、超音波検査機はベラルーシ国全域で1台ほど。18歳未満全員のスクリーニングなど行っていません。ベラルーシに医師たちが自らの手で触診を行い、穿刺細胞診を行い、甲状腺がんであると診断したのです。ベラルーシの医師たちは原発事故の2年目から、「原発事故2年後から小児甲状腺がんが増えている」と指摘し、問題視していました。日本の医師は一体何をやっているのでしょうか。

1988年 3人(チェルノブイリ原発事故のあった1986年4月26日時点で7歳、8歳、17歳それぞれ1人)

1989年 5人(チェルノブイリ原発事故のあった1986年4月26日時点で1歳、5歳、14歳、15歳、16歳それぞれ1人)

※ 福島県県民健康調査検討委員会に、福島県立医大放射線医学県民健康管理センターの甲状腺検査責任者として出席して報告してきた、鈴木眞一教授(2015年5月18日甲状腺検査責任者を退任)も、また、2016年3月9日の朝日新聞 大岩ゆり氏の記事でも、「チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺がんのほとんどが原発事故当時0~5歳の子どもたち。福島で見つかっている小児甲状腺がんの子どもたちの原発事故当時の平均年齢は17歳。だから、今回の福島で見つかっている小児甲状腺がんは原発事故の放射線によるものではない。」と言っています。果たしてそうでしょうか?

 上記1989年(チェルノブイリ原発事故4年目)で始めて原発事故当時1歳や5歳だった子どもが小児甲状腺がんと診断されています。

1990年 15人(チェルノブイリ原発事故のあった1986年4月26日時点で0歳2人、1歳2人、3歳1人、4歳4人、5歳1人、6歳2人、8歳2人、13歳1人)

※ 1990年は原発事故5年目にあたります。日本では昨年2016年に相当する年になります。チェルノブイリ原発事故5年目にあたる1990年の小児甲状腺がんは、1985年の「1人」の15倍ということになります。また、原発事故当時0~5歳の子どもたちの発症が0歳2人、1歳2人、3歳1人、4歳4人、5歳1人、と合計10人と、実に全体の67%を占めています。そして、原発事故5年目にして、当時5歳以下の子どもで始めて小児甲状腺がんの子どもが見つかったことに注意すべきです。福島でも同じことが起きているのではないでしょうか。

※ 1990年 チェルノブイリの国ではこの年に15人もの子どもたちの小児甲状腺がんが見つかり、大騒ぎになっていました。一方、日本の医師は何をしているのでしょうか?2016年6月6日に福島県だけで172人もの小児甲状腺がんの子どもたちが見つかっているのに。注意するべきなのは、チェルノブイリ原発事故から5年後の小児甲状腺がん15人のうち、実に3分の2の10人が6歳未満であるということです。次回の福島県の県民健康調査検討委員会は2016年9月にも開かれるでしょうが、チェルノブイリと同じ経過を辿るのではないか、と危惧されます。新たに見つかった小児甲状腺がんの子どもたちの、原発事故当時の年齢が半数が0~5歳(6歳未満)になるのではないか、と。

 果たして、東電福島第一原発事故から5年目の今年、日本で一体、何が起こるのでしょうか?

 この小児甲状腺がんと診断された年次別の子どもたちの人数を原発事故4年後まで、5年後まで、6年後まで、10年後まで、この山下論文で公表されている13年後までの累計をグラフにしました。

 それぞれ「小児甲状腺がんと診断された年次」と「原発事故当時の年齢」で考えています。

 現時点で福島県の小児甲状腺がんの子どもたちの累計はちょうど、チェルノブイリ原発事故4年後までとそっくりではないでしょうか。原発事故4年目の1989年まではチェルノブイリでは16歳にピークがあり、東電福島第一原発事故では17歳にピークがあります。

 5年後から原発事故当時0~4歳の子どもたちの小児甲状腺がんが多発しているのです。累計をご覧ください。

 福島でも、今年2016年から、原発事故当時0~4歳の子どもたちが小児甲状腺がんを発症し始める危険性があります。

 福島県だけではなく、茨城県、宮城県、岩手県、山形県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、千葉県、神奈川県、静岡県など放射能のプルームが強く通った地域では、子どもも大人も甲状腺検査、血液検査、心電図検査が必要だと考えます。

 朝日新聞の記事から

<4年後まで>ベラルーシ共和国ゴメリ州における小児甲状腺がん 1985年から1989年チェルノブイリ原発事故4年後までの累計 山下俊一氏の研究に基づく

<5年後まで>ベラルーシ共和国ゴメリ州における小児甲状腺がん 1985年から1990年チェルノブイリ原発事故5年後までの累計 山下俊一氏の研究に基づく

<5年後まで>ベラルーシ共和国ゴメリ州における小児甲状腺がん 1985年から1991年チェルノブイリ原発事故6年後までの累計 山下俊一氏の研究に基づく

<10年後まで>ベラルーシ共和国ゴメリ州における小児甲状腺がん 1985年から1995年チェルノブイリ原発事故10年後までの累計 山下俊一氏の研究に基づく

<13年後まで>ベラルーシ共和国ゴメリ州における小児甲状腺がん 1985年から1998年チェルノブイリ原発事故13年後までの累計 450人 山下俊一氏の研究に基づく

 福島県だけでなく、茨城県や岩手県など東北・関東一円に放射能プルームが通過しました。このプルームが通過したとき、屋外にいた人々は雨には濡れないように。家に帰ったら、シャワーは浴びよう。以下の動画が参考になります。放射能プルームの拡散のようすです。

ヨウ素131の沈着積算量シミュレーション(3月12日から3月23日)国立環境研究所

[初稿]2016年3月14日 記 川根眞也

[加筆・修正]2016年3月15日 記 川根眞也