福島県立医科大学 山下俊一氏がアメリカの米国放射線防護・測定審議会(NCRP)の第49回年次総会で『福島原子力発電所事故と包括的健康リスク管理』と題する記念講演を行っていました。東日本大震災から2年目を迎えた、2013年3月11日の朝8時30分にです。

 先に行われた、第10回福島県県民健康管理調査検討委員会の報告の中で、事故当時18歳以下だった福島県の子どもたち3万8000人の中で3人の小児甲状腺がんの患者が見つかり、あと7人に細胞診の結果「小児甲状腺がん」の疑いが強いとされました。(2013年2月13日)

 この第10回県民健康管理調査検討委員会の後の記者会見(2013年2月13日)で山下俊一氏はチェルノブイリ事故後の小児甲状腺がんの超音波検査と穿刺(せんし)細胞診による診断率について語っています。チェルノブイリ事故後の超音波検診と今回の福島での超音波検診とは機器や精度の差、技術者の技量のため比較できない、とも語っています。

 しかし、山下氏はこのアメリカのNCRPで行った講演で、記者会見(2013年2月23日)で語ったことと全く違ったことを報告しています。

Fukushima Nuclear Power Plant Accident and Comprehensive Health Risk Management Shunichi Yamashita Fukushima Medical University

① この講演のスライド61ページでは

「Of the 76 cases in which FNAC was performed in 1st Preliminary Survey, 10 cases were diagnosed as malignant or suspected for malignancy, and thyroid cancer was already confirmed in 3 of the 10 cases after thyroid surgery.」

「甲状腺検査の1次検査(平成23年度)の中で76名の穿刺(せんし)吸入細胞診(FNAC)※がすでに行われ、10件が悪性または悪性の疑いと診断され、甲状腺手術の結果、10人中3人が小児甲状腺がんと診断された」

と書かれていますが、次の62ページでは10名全員が小児甲状腺がんとしてカウントされています。

② 2013年2月13日の記者会見では「(チェルノブイリ事故後の超音波検査は今から20年も15年も前のことだから)これは使った機器、精度、そして技術者の度量いろんなものを含めますから、今の状況(福島県の18歳以下の甲状腺検査)と当時の状況を照らし合わせるはできないというのは常識であります。」

youtube動画 第10回福島県健康管理調査 記者会見(37分) 31’20頃から

 と言った、その舌の根も乾かないはずの、3月11日の講演で、彼が調査に入ったゴメリでの超音波検査の結果見つかった小児甲状腺がんの患者数と福島とを比べています。講演のスライドの11ページと上記62ページ。

③ 2013年2月13日の記者会見では山下俊一氏は「基本的にはチェルノブイリでも甲状腺の超音波検査を行いました。20年から15年前ですから感度、精度管理においてははるかに劣る。だいたい1万人に1人、多い所で5000人に1人の小児甲状腺がんが見つかりました。」と語っています。

youtube動画 第10回福島県健康管理調査 記者会見(37分) 29’41頃から

 しかし、上記スライド11ページでは、ベラルーシ共和国ゴメリ州で1998年から2000年に超音波検査や穿刺(せんし)吸引細胞診のスクリーニングを行った結果、事故当時0歳~3歳4ヶ月までの子ども(誕生年月日が1983年1月1日から1986年4月26日…チェルノブイリ原発事故当日)9720人中31人の甲状腺がんを発見しています。これは山下俊一氏自身が関わったスクリーニングの検査であり、彼の書いた論文を彼自身が引用し、2013年3月11日にアメリカで講演しているのです。これのどこが1万に1人や5000人に1人なのでしょうか?

 アメリカの放射線防護学の専門家には真実を語り、日本のマスコミにはうそを語っているのではないでしょうか?

 そして、福島でも原発事故当時0~4歳であった子どもたちが10年後、20年後甲状腺がんを発症する割合が1万人に数10人である可能性を山下俊一氏自身が示しているのではないでしょうか。

 マスコミ関係者のみなさん。山下俊一氏への取材を強くお願いします。

※ 穿刺(せんし)吸入細胞診 FNAC