日赤「宇崎ちゃん」献血PRポスターは”過度に性的”か 騒動に火をつけた米国人男性に聞いてみた

2019年10月20日  文春オンライン
 

 日本赤十字社による漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とのコラボポスターがネット上で賛否両論を呼んでいる。

 ポスターは、『宇崎ちゃんは遊びたい!』のキャラクター・宇崎ちゃんが、「センパイ! まだ献血未経験なんスか? ひょっとして……注射が怖いんスか~?」と呼びかけるもの。「ポスターに登場するキャラクターの描写が過度に性的では」と問題視する声がある一方で、「性的ではない」「表現を締め付けてはいけない」と擁護する声もある。

 議論に火をつけたのは、米国人男性のジェイ・アレンさん。街中で見つけたポスターをツイッター上に投稿したところ、瞬く間に拡散されたという。

Unseen Japan @ 超スプーキー@UnseenJapanSite
 
 

I admire the work the Red Cross does, which is why I’m disappointed that @JRCS_PR in Japan would run a campaign using the over-sexualized Uzaki-chan. There’s a time & a place for this stuff. This isn’t it.

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 なぜツイッターで問題提起するに至ったのか。電話で話を聞いた。

◆ ◆ ◆

――ポスターを見つけた経緯を教えてください。  

ジェイ・アレンさん(以下アレン) 妻が東京出身なので、帰省している最中でした。妻の家族に会うために、年に数回日本に来ているんです。  

 家族と昼食の約束があったので、妻と一緒に新宿駅を出て歩いていたところ、駅のすぐそばにポスターが貼ってあるのが目につきました。  

©iStock.com

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 公の場で性的なポスターが貼り出されているのにも違和感がありましたし、よくよく見ると日本赤十字社の公式ポスターだったので、さらに驚きました。妻も同様のリアクションでした。  

――見つけたポスターをアレンさんがツイッターに投稿したところ、賛否両論が巻き起こりました。ポスターは、日本のアニメ表現ではスタンダードなもので、性的な意図はないという声もありますが。  

アレン 胸を過度に強調するポーズやキャラクターの表情など、エロ漫画の中ではスタンダードな表現かと思いますが、たとえば『ラブライブ!』のようなメジャーな作品においては、典型的な表現だとは思いません。 

 そもそも、『宇崎ちゃんは遊びたい』はエロ漫画的な要素がある作品としてスタートしたと聞いています。今はそこから変遷して、そうとも言い切れないようですが。

表現の締め付けになる?  

――「不快だ」という声を受けて、表現を締め付けてはいけない、という意見もあります。  

アレン 表現の自由と、公共の場を安心できる空間にすることの間に、バランスは必要だと思います。  

 特に日本では今、多くの女性が日本社会の女性に対する扱いに疑問を感じています。たとえば、痴漢やセクハラの問題が続いていたり、性犯罪に対する不当な無罪判決が下りて、それに抗議するデモが起こっていたりする。  

 このような環境で、公の場で女性を過度に性的に描写することは、「女性はこのように扱われるべきものだ」というメッセージを発してしまうと思います。  

――「何がOKで何がNGなのか、線引きが不可能では」という声もあります。  

アレン 今回の騒動で初めて「TPO」という和製英語を知ったのですが、まさにTPOの問題だと思います。今回の表現は、TPOにそぐわなかった。  

 こうした絵柄が秋葉原の一角に貼り出されていたのだとしたら、何の違和感も感じなかったでしょう。秋葉原に行く人は、こうした表現を目にすることを予想しているでしょうから。本屋の一角で原作の漫画を見かけたとしても、「好みは人それぞれだから」で済む話です。  

英語でも多くの批判があった

――オンライン上で最初に投稿した際に、英語でも多くの批判があったと聞きました。どのような批判がありましたか。  

アレン「アメリカ人が、西洋の視点を持ち込んで批判している」という声が多かったです。  

 でも、実際は、あの画像を見た直後に、複数の日本人の友人たちに送って意見を聞いてみているんです。とある友人は私より怒り、別の友人は岐阜県美濃加茂市の観光協会による『のうりん』とのコラボポスターを挙げ、「以前も似たようなことがあったのに、なぜ改善がないのか」と失望していました。  

――しかし、表現に関する問題が欧米のメディアに指摘されて初めて撤回される、というパターンが多く見受けられるのも事実です。  

アレン 日本の記者と話すと、日本のメディアは自己規制しがちだと言っていました。海外メディアで問題が沸騰してから、日本のメディアがようやく取り上げる口実ができる、「外圧」が必要だ、と。  

 でも、多様なルーツの人が増えてきている今、マイノリティが日本社会に居場所があると感じられるよう、日本社会の側も、マイノリティの声を拾う努力をすべきなのではないでしょうか。  

――今回の件に限らず、普段から日本の社会問題について英語で発信されています。その意図は。  

アレン 欧米には、日本を「均質で家父長的な社会」として理想化する熱心なアニメファンが一定数います。それは間違っている認識であることは、歴史をさかのぼっても、今のSNSを見ても明らかです。  

 海外では、日本社会は画一的な社会だとステレオタイプに見られがちですが、欧米と同じように、個人が様々な意見を持ち、活発な議論がおこなわれている社会です。それを英語圏の人々にも伝えたいと思っています。  

――最後に、アレンさんが日本に関心を持ったきっかけを教えてください。  

アレン 実は、中学生のときに日本のアニメにハマったのがきっかけです。  

 80年代後半から90年代当時の米国では、日本のアニメはまだ人気が出ていなかったので、アニメ好き同士でVHSテープを交換したりして……『ガッチャマン』や『マクロス』を見て育ちました。高橋留美子さんも大好きです。  

 日本語を本格的に勉強しだしてからは、日本文化により広く興味を持つようになりましたが、今でもアニメは好きでたまに見ますよ。