「甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)結果に対する部会まとめ(案)」を全文紹介します。第13回福島県甲状腺評価部会で初めて公表された案です。ちなみにour planet tvによれば、甲状腺評価部会でこの案は一度も検討委員会されていません。

〈参考〉

「甲状腺がん「放射線関連なし」 〜一度も議論せず報告書公表」

our planet tv 2019年6月3日

 この福島県甲状腺評価部会の中間報告が、いかにデタラメであるかは、読んでみないことには、話が始まりません。

 参考に、この「福島の子どもたちの小児甲状腺がんは原発事故による放射線被曝の影響ではない」とする福島県の公表について、新聞各紙がどう報道したか、は、以下にまとめてあります。川根の批判的解説も合わせてお読み下さい。

〈参考〉

「福島県の小児甲状腺がん 『放射線被ばくとの関連なし』の中間報告を新聞各紙はどう報じたか? 2019年6月4日」内部被ばくを考える市民研究会 資料

 

 以下、2019年6月3日に第13回福島県甲状腺評価部会が公表した、中間報告(案)を全文掲載します。

 

甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)結果に対する部会まとめ(案)
令和元年 6 月 3日

福島県県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会(以下「評価部会」という。)は、平成 23 年度から平成 25 年度に実施した甲状腺検査先行検査で得られた結果に対する評価として、平成 27 年 3 月に「甲状腺検査に関する中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という。)としてまとめた。中間とりまとめでは、先行検査の結果については「放射線の影響とは考えにくいと評価する」とした。

平成 29 年 2 月 20 日に開催の第 26 回福島県県民健康調査検討委員会において、本格検査(検査 2 回目:平成 26~27 年度)の検査結果のまとめ及び評価を行うため、評価部会を招集することが提案された。この提案を受けて、平成 29 年 6 月 5 日に検討委員会との合同で第 7 回評価部会、新たな評価部会員構成により平成 29 年 11 月 30 日に第 8 回評価部会を開催し、令和元年 6 月 3 日の第 13 回評価部会に至るまで、計 7 回にわたる評価部会において審議を重ねた。
これまでの審議内容を踏まえ、本格検査(検査 2 回目)の結果及びその結果に対する見解、今後の検討課題等を本評価部会としてのまとめを以下に示す。
1 甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)で得られた結果について平成 26 年 4 月から開始した本格検査(検査 2 回目:平成 26~27 年度)では、先行検査における対象者(平成 4 年 4 月 2 日から平成 23 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民)に加え、平成 23 年 4 月 2 日から平成 24 年 4 月 1 日までに生まれた福島県民を加え、約38 万人を対象とした。平成 29 年 6 月 30 日現在で約 27 万人が受診し(受診率 71%、17歳以下の受診率 86.4%、18 歳以上の受診率 25.7%)、二次検査の対象者であるB判定は2,227人(0.8%)、C 判定は 0 人であった。二次検査において穿刺吸引細胞診を行った方のうち、71 人が悪性ないし悪性疑いと判定された(10 万人対 26.2、男性 32 人:女性39 人、平均年齢 16.9±3.2 歳(9-23 歳)、震災当時平均年齢 12.6±3.2 歳(5-18 歳)、平均腫瘍径11.1±5.6mm)(参考:手術実施 52 人のうち、乳頭がん 51 人、その他の甲状腺がん 1 人)。
先行検査における甲状腺がん発見率は、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推計される有病率に比べて、数十倍高かった。本格検査(検査 2 回目)における甲状腺がん発見率は、先行検査よりもやや低いものの、依然として数十倍高かった。

地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率について、先行検査で地域の差はみられなかったが、性、年齢等を考慮せずに単純に比較した場合に、本格検査(検査 2 回目)においては、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高かった。
しかし、悪性ないし悪性疑いの発見率には多くの要因が影響していることが想定されるため、考えられる状況について検討を行い、その結果、次の傾向が見られた。
・ 先行検査で 5.1 ㎜から 10 ㎜の結節の発見率が避難区域等13市町村で低いことや、本格検査で B 判定であった者の中で先行検査においても B 判定であった者の割合が避難区域等13市町村で低かったことから、本格検査の結果に先行検査の結果が影響している可能性が示唆された。
・ 先行検査と本格検査の検査間隔が長いほど細胞診実施率と悪性ないし悪性疑いの発見率が高い。ちなみに、平均検査間隔は避難区域等13市町村が最も長かった。
・ 細胞診実施率は先行検査を含めて年々低下している。また、本格検査(検査 2 回目)における細胞診実施率は、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に低下していた。
・ 先行検査で細胞診を実施している場合には、先行検査で細胞診を実施していない群と比較して、本格検査における細胞診実施率および悪性ないし悪性疑いの発見率が低くなる傾向がみられた。
2 甲状腺検査本格検査(検査2回目)における甲状腺がん発見率と放射線被ばく線量との関連に関する予備的解析について
これらの検討の結果より、性・検査時年齢の他、検査実施年度、細胞診実施率、先行検査からの検査間隔、先行検査での細胞診実施の有無など多くの要因が悪性ないし悪性疑いの発見率に影響を及ぼしていることが考えられる。従って、甲状腺がん発見率と線量との関連を検討するためには、これらの要因を制御するための解析をする必要がある。
線量としては、暫定的に原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)で公表された年齢別・市町村別の内部被ばくを考慮した推計甲状腺吸収線量を用いた(編集者注1)。
その結果、線量と甲状腺がん発見率に明らかな関連はみられなかった。
3 所 見
一次検査の結果での精密検査が必要となる B 判定の割合や悪性ないし悪性疑いの発見率は、事故当時の年齢、二次検査時点の年齢が高い年齢層ほど高かった。これは、チェルノブイリ事故後に低い年齢層により甲状腺がんが多く発見されたものと異なっている。年齢の上昇に伴いがんが見つかることは、一般的ながんの発症と同様である。

男女比がほぼ 1 対 1 となっており、臨床的に発見される傾向(1 対 6 程度)と異なる。
潜在癌で見つかる場合や、年齢が低いほど男女比が小さくなる傾向などの報告もあるが、男女比と被ばくとの関係についての評価は今後の課題として残されている。
悪性ないし悪性疑いの発見率を単純に4地域で比較した場合においては、差があるようにみえるが、それには検査実施年度、先行検査からの検査間隔など多くの要因が影響しており、それらの要因を考慮した解析を行う必要がある。
発見率に影響を与える要因を可能な限り調整し、暫定的に年齢別・市町村別UNSCEAR推計甲状腺吸収線量を用いて行った線量と甲状腺がん発見率との関連の解析においては、線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・効果関係)は認められない。
よって、現時点において、甲状腺検査本格検査(検査 2 回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない。
4 甲状腺検査に対する対象者への説明について
甲状腺検査対象者への説明内容について、評価部会において議論を進めてきたが、今後も対象者に対して甲状腺検査のメリットやデメリットを含め丁寧に説明し、理解を得るとともに、同意を得た上で実施することが重要である。
5 今後の評価の視点について
平成 28 年度から検査 3 回目、平成 30 年度から検査 4 回目が行われており、それらの検査結果を蓄積した解析を行う必要がある。
また、県民健康調査甲状腺検査の受診率は年々低下がみられ、特に高等学校卒業後の年代の受診率が低く、今後も低下が予想される。また、県民健康調査甲状腺検査とは別の機会に発見される事例も増えてくる可能性も考えられる。
このことから、地域がん登録及び全国がん登録を活用し、甲状腺検査対象者のがん罹患状況を把握することにより分析することが考えられる。
さらに、将来的には、推定甲状腺被ばく線量を用いて、交絡因子等を調整した症例対照研究として、線量と甲状腺罹患率との関連を検討する必要がある。
これらの視点をもって、今後の評価部会、検討委員会での検討を進める必要がある。

 (注1) 

国連科学委員会(UNSCEAR)で公表された年齢別・市町村別の内部被ばくを考慮した推計甲状腺吸収線量 とは以下です。

UNSCEAR 2013 Report, Annex A、 ATTACHMENT C―16、 Table C―16.2 の推定甲状腺総吸収線量(Total)

UNSCEAR 2013 Report, Annex A、ATTACHMENT C 18, Table C 18.5 の推定甲状腺総吸収線量(Total dose)

 これらは、どちらも、実測値に基づかない推計値であること。また「for first year」とありように、2011年3月からの1年間の被曝線量の推計に過ぎないことに注意すべきです。